訪問入浴は、身体の障害によって自宅での入浴ができない人に対し、浴槽を運び入れて入浴介助を行う介護保険サービスを指します。
特に障害の程度が重い方が在宅生活を継続するためには欠かせないものです。
本記事では、訪問入浴の利用条件やメリット、サービスの流れなどについて詳しく解説します。
- 訪問入浴介護とは
- 介護保険サービスとしての訪問入浴
- 訪問入浴の流れ
- 1.入浴前の健康状態チェック
- 2.入浴の準備
- 3.洗顔・洗髪・洗身
- 4.入浴・上がり湯
- 5.着衣と健康状態チェック
- 6.片付け
- 訪問入浴を受けるメリット
- 訪問入浴を受ける際の注意点
- 訪問入浴業務に向いている人の特徴
- まとめ
訪問入浴介護とは
基本は介護職員2名と看護師1名のチームで構成され、特殊浴槽を積んだ訪問入浴車で契約している利用者宅をスケジュール通りに訪問し、入浴サービスを提供します。
看護師はバイタルチェックや入浴の可否の判断、入浴後の処置、更衣の手伝いなどを行います。
介護職員は更衣や洗髪・洗身といった身体介助が主な役割です。
3人のうちの1人は訪問入浴オペレーターとして、車両の運転や特殊浴槽の組み立て、入浴や更衣時のサポートなどを行います。
サービスの内容
訪問入浴介護は、3人一組で利用者宅を訪問し、組み立て式の特殊浴槽を運び入れて入浴介助を行います。
ボイラーを積んだ専用車両からお湯を供給するため、自宅内に水道とおよそ2畳程度のスペース、電源、排水の経路があれば入浴が可能です。
マンションの3階以上にお住まいでも、専用車両からお湯を供給できる環境であれば、多くの住宅でサービスを受けられます。
浴槽の下には防水シートを敷くため、床が水浸しになる心配はありません。
麻痺や拘縮が強く自宅のお風呂では入浴できない方でも、訪問入浴なら安全に入浴を楽しめるため、重度の障害をお持ちの方に利用されています。
1回の所要時間
入浴にかかる時間は障害の程度や処置の有無、環境によって変わりますが、約50分程度です。
浴槽の運び入れや体調確認、脱衣などで約15〜20分、実際の入浴時間が約10分、入浴後の処置や着衣、片付けなどに15〜20分を必要とします。
訪問介護の入浴介助にかかる時間とほぼ同程度です。
訪問介護の入浴介助との違い
訪問介護による入浴介助では、自宅のお風呂を使用しなければならないため、障害の程度によっては入浴が困難な場合があります。
訪問入浴で使用する特殊浴槽は、寝た姿勢のままでも入れるように設計されているため、ほとんどの利用者が入浴可能です。
また、看護師が同伴することから、在宅酸素やストーマ、気管切開などの装置を使用されている医療依存度の高い方も適切な処置を受けられます。
介護度が高く、医療的ケアを必要とする利用者にとって、訪問入浴は安心して入浴できるサービスといえるでしょう。
介護保険サービスとしての訪問入浴
訪問入浴は介護保険法の居宅介護サービスに位置付けられます。
利用するには、原則として在宅であり、要介護認定を受けていることが条件です。
介護保険上の居宅サービスは、介護度に応じた支給限度基準額の範囲内で、ケアプランに基づきサービスを組み合わせます。
介護保険サービスの観点から訪問入浴を解説します。
訪問入浴介護の利用条件
訪問入浴は介護保険サービスであるため、原則として介護を必要とする方が対象となります。
基本的には麻痺や拘縮など重度の利用者が主であり、寝たままの状態でなければ入浴できない方や、入浴時に医療的ケアが必要な方に向けたサービスです。
訪問入浴介護を利用するための具体的な条件について解説します。
参照:厚生労働省「訪問入浴介護」
原則要介護1〜5の人が対象
基本的には、主治医から入浴を中止されていない人で、要介護1〜5の人が対象です。
要介護1の方でも訪問入浴サービスを受けることは可能ですが、訪問介護の入浴介助に比べると利用料が高いため、特別な事情がなければあえて利用する方は多くありません。
令和4年に発表された厚生労働省の資料によると、訪問入浴利用者のうち、約9割が要介護3以上です。
データから見ても、介護度の高い方の利用が多いことがわかります。
参照:厚生労働省「訪問入浴介護」
要支援1・2の人は特別な条件が必要
要支援1・2であれば、歩いたり浴槽をまたいだりできる方も多いため、特殊浴槽を持ち込んでの入浴に必要性をあまり感じないでしょう。
ただし、自宅にお風呂がない、感染症などにより他の施設利用が難しいなどの特別な事情により、介護予防訪問入浴サービスとして利用することは可能です。
1回の自己負担額
訪問入浴は介護保険サービスですので、利用料の本人負担は所得に応じて1〜3割です。
訪問入浴サービスと訪問介護の身体介護(30分以上1時間未満)、デイサービス1回の利用料を比較すると以下になります。
| 単位数 | 1割負担の場合の料金 (1単位10円として試算) | |
| 訪問入浴 | 1,266単位 | 1,266円 |
| 訪問介護の身体介護 (30分以上1時間未満) | 387単位 | 387円 |
| 通常規模デイサービス (要介護1 3時間以上4時間未満) | 370単位 | 370円 +入浴介助加算や 食費(保険外実費)など |
参照:厚生労働省「介護報酬の算定構造」
このように、入浴介助を提供しているサービスごとに料金は異なります。
事業所や地域によってもサービス加算や単位あたりの料金が異なりますが、訪問入浴は他のサービスと比べて利用料が高くなりやすい傾向があります。
種類支給限度基準額
介護保険サービスの中には、特定のサービスに限って1人の利用者が受けることのできる回数に上限が定められている場合があります。
訪問入浴などの一部のサービスは提供事業者が少ないことなどから、需要の全てに対応することが困難です。
なるべく多くの利用者が均等にサービスを受けられるよう、地域のさまざまな実情によって市町村が種類支給限度基準額を設けていることがあります。
介護保険の単位数が余っていても、限度基準額を超えて利用することはできません。
具体的な利用制限については、お住まいの市町村への問い合わせが必要です。
訪問入浴の流れ
基本的な流れは通常の入浴介助と同じですが、看護師を含めた3人一組で行うことが多いため、業務の分担が重要です。
移乗や更衣、洗身は2人以上で行う場合も多いため、連携を取りながら安全に介助することが必要です。
訪問入浴の実際の流れについて解説します。
1.入浴前の健康状態チェック
利用者宅に到着したら、看護師が血圧や体温などのバイタルサインを確認し、入浴の可否を医学的な観点から判断します。
もし血圧の異常や発熱などがあれば、部分浴や清拭に切り替える対応が必要です。
入浴中も状態に変化があれば、状況によっては途中で中止することもあります。
高齢者は体調の変動が起こりやすく、入浴は身体への負担も大きいため、看護師が常に状態を確認しながらサービスを提供します。
2.入浴の準備
バイタルサインに異常がなく、利用者にも入浴の了承が得られたら入浴を開始します。
まずオペレーター役が特殊浴槽を運び入れ、お湯をためます。
その間に他の職員は着替えの準備や脱衣を行います。
ボディソープやシャンプー、タオル類は事業所が無料で用意していることが多いですが、利用者やご家族の希望により、低刺激性のシャンプー類が用意されていることもあります。
3.洗顔・洗髪・洗身
脱衣が終わり、お湯がたまったら、浴槽の上のストレッチャーに移動します。
ベッドからの距離が近ければ、2人または3人で利用者を持ち上げるか、担架シートを利用します。
浴槽内で洗髪、洗顔、洗身を順番に行い、泡を落とします。
身体を洗いながら全身の皮膚状態もチェックします。
浴槽の下には防水シートが敷いてありますが、必要以上に水を飛ばさないように注意しながら丁寧に洗うことが大切です。
4.入浴・上がり湯
身体を洗い終わり、浴槽内で温まっている間に、ベッドの準備をしておきます。
大きな防水シーツを敷き、その上にバスタオルを敷いて布団が濡れないように対策します。
事業所によってはシーツ交換を一緒に行ってくれるところもあります。
準備ができたら上がり湯をして、身体が冷えないように手早くタオルで水分を拭き取り、全身を包み込んでベッドへ移動します。
5.着衣と健康状態チェック
身体の水分をしっかりと拭き取り、軟膏類があれば塗布して着衣します。
入浴後に再度、看護師がバイタルチェックを行い、異常がないことを確認します。
必要に応じて爪切りや耳掃除、整容を行います。
6.片付け
入浴介助が完了したら、着衣やバイタルチェックと同時進行で、浴槽の洗浄を行います。
浴槽やストレッチャーをシャワーで流し、お湯はトイレやお風呂場の排水溝などに流します。
水分を拭き取ったあと、車に積んで撤収します。
次の利用があればそのまま利用者宅に向かいます。
事業所によって異なりますが、1日に4〜8件程度を訪問し、入浴介助を行うケースが一般的でしょう。
訪問入浴を受けるメリット
自宅での入浴が難しい場合、訪問入浴やデイサービスでの入浴が選択肢として挙げられます。
ただし、デイサービスは利用者によって合う・合わないがあり、特殊浴槽を備えた事業所を選ぶ必要があります。
特に寝たきりの方の場合、デイサービスでの受け入れが難しいケースも少なくありません。
その点、訪問入浴は、外出が困難な方でも入浴しやすい環境を整えられるサービスであり、入浴の機会を確保する上で重要な役割を担っています。
身体の清潔を維持できる
入浴ができない場合、清拭も一つの方法ではありますが、やはり体の汚れを落とすという意味では入浴には劣ります。
高齢者は汗をかいていないように見えても、拘縮によって皮膚が重なっているところには垢がたまることも多く、入浴で洗い流すことはとても重要です。
また、おむつによるかぶれや褥瘡の悪化を防ぐためにも、入浴によって清潔を保持することは大切になります。
リラックス効果
入浴がもたらすリラックス効果は広く知られています。
お湯の温熱効果によって副交感神経が刺激され、心身のリラックス効果をもたらします。
また、温熱とお湯の水圧によって血管が拡張され、血流が促進されることで、血行の改善や筋緊張の緩和にも期待できます。
関節拘縮の予防にも効果的です。
入浴は健康的な生活の一部でもあるため、訪問入浴は重要な支援といえるでしょう。
自宅での生活を継続できる
寝たきりの状態になっても、住み慣れた自宅での生活を望む方は多く見られます。
しかし、寝たままの体勢で入浴できる特殊浴槽を自宅に設置するのは容易ではなく、結果として入浴を諦めたり、施設への入所を検討したりするケースもあります。
訪問入浴であれば、自宅にお住まいでも特殊浴槽での入浴が可能になり、寝たままの状態でお湯に浸かって心身ともにリラックスできます。
自宅のお風呂での入浴が困難になっても、訪問入浴サービスを受けることで、身体の清潔を保ち、在宅生活を続けることが可能です。
家族の負担軽減
拘縮や麻痺があり身体の自由がききにくい方を、自宅の浴槽で入浴させることは、家族で介護を行っている介護者にとって大きな負担となる場合があります。
無理な姿勢での介助が続くと、腰や肩を痛めてしまう原因につながることも少なくありません。
また、介護度が高い方の中には、在宅酸素やストーマなど取り扱いに配慮が必要な医療機器を使用しているケースや、体調の変化により入浴の可否判断が難しい場面も見られます。
訪問入浴では看護師が同行し、状態を確認しながら入浴介助を行うため、重度の障害がある方でも入浴しやすい環境が整います。
その結果、家族介護にかかる身体的・精神的な負担の軽減にもつながるでしょう。
訪問入浴を受ける際の注意点
訪問入浴は、重度な障害を持ちながら自宅での生活を継続している方に対し、安全で快適な入浴を提供しているサービスです。
一方で、利用にあたっては、あらかじめ把握しておきたいポイントもあります。
体調によっては部分浴や清拭に切り替わる
高齢者は状態の変化が大きく、体調によっては入浴ができない場合もあります。
その場合、部分浴や清拭(お湯で濡らしたタオルで身体を拭くケア)など、できる範囲内のサービスに切り替えて対応します。
利用者が入浴を拒否した場合、キャンセルや清拭に切り替わることもあります。
事業所によって、清拭や部分浴になった場合、利用料は少し安くなりますが、当日キャンセルの場合は100%の利用料を請求されることもあります。
訪問入浴事業所との契約時は、清拭やキャンセルになった時の利用料も確認しておきましょう。
看護職員は医療行為を行えない
看護師が同行することから、さまざまな医療行為をしてもらえると思われるかもしれません。
しかし、訪問入浴の看護師は医療提供そのものが目的ではないため、事業所の契約内容にもよりますが、原則として入浴に関係する医療行為のみを行います。
バイタルチェックや軟膏の塗布、湿布の貼付などは行いますが、吸引や摘便、褥瘡のケアといった入浴に関係のない処置は、通常訪問看護で対応します。
訪問入浴車の駐車スペースが必要
訪問入浴は訪問入浴車による自宅の訪問から始まります。
そのため、自宅付近に駐車スペースが必要です。
地方では比較的スペースがあることが多い一方、都市部では駐車が困難で、利用を断られることもあります。
場合によってはその時間帯だけ自宅の駐車場を空けるなど対策が必要でしょう。
お湯は主に自宅のものを使う
訪問入浴車にもある程度のお湯を積んでいる場合がありますが、基本的には自宅の給湯や水道の水を車両のボイラーで温めて浴槽に流し入れます。
そのため、使用する水道代については、利用者側の負担となります。
また、高層階の場合は車両から給湯できないため、浴室からお湯を引きます。
特殊浴槽は通常の浴槽よりも大きく、お湯を大量に使うことを理解しておきましょう。
特殊な浴槽水を使うと費用が増えることも
入浴剤や薬剤などを使用した特殊な浴槽水の場合、追加費用がかかることがあります。
特殊浴槽は洗浄後に他の利用者宅でも使用されるため、入浴剤や薬剤を使用した場合、事業所によっては清掃費として追加料金が必要です。
日本の一部の地域では水道水から温泉が出ることもあり、そのような水を使った時も追加料金が課されることがあります。
利用規約や追加費用に関しては必ず目を通し、気になることがあれば事前に確認することが大切です。
訪問入浴業務に向いている人の特徴
訪問入浴事業所で働くにあたって、学歴や資格が必須となるわけではありません。
その一方で、以下のような特徴を持つ方は、訪問入浴の仕事に取り組みやすい傾向があります。
協調性のある人
訪問入浴は3人一組で業務を行うため、チームワークを大切にできる人でなければ務まりません。
高齢者にとって入浴は身体への負担が大きいことから、安全かつスピーディーな業務が求められます。
他の職員の動きにも気を配りながら自分のすべきことを考え、行動できる人が向いているといえるでしょう。
体力のある人
訪問入浴では、主に麻痺や拘縮などで重度の障害をお持ちの方を対象にしています。
立ち上がることのできない方が多く、身体を支えたり持ち上げたりする介助も多いため、体力に自信がないと続けるのは難しいでしょう。
真夏は特に重労働です。
水分をこまめに取り、体力を維持して業務を行わなければなりません。
日勤のみで働きたい人
訪問入浴は日中のみに行われるため、夜勤のような変則的な勤務はありません。
介護の仕事をしたいものの、夜勤がつらい、夜は家族の世話があるなどの理由で働けない人もいるでしょう。
生活リズムやワークライフバランスを保ちたい人にとって訪問入浴の仕事は選択肢の一つになると思われます。
ある程度臨機応変な判断ができる人
訪問入浴の利用者は介護度の重い方が多いため、体調の変化が大きいことに注意を払う必要があります。
入浴途中で意識消失や脱水などの症状があれば、他の職員にも報告し、適切に対処しなければなりません。
また、入浴の拒否が見られた場合にも、原因を探って声かけを工夫する、心理的な不安を取り除けるように関わるなど臨機応変な対応が必要になります。
状況に応じた対処をできる人が訪問入浴では重宝されるでしょう。
細かい気配りができる人
通常の入浴介助と異なり、裸の利用者1人に3人で対応することから、利用者は羞恥心を感じやすくなります。
事業所によっては、入浴中の家族の立ち会いを求められる場合もあり、さらに羞恥心が増すことにもなるでしょう。
また、利用者によって疾患は千差万別であり、特定の動作に強い痛みを感じられることもあるため、介助時には配慮が求められます。
局部をタオルで隠すなどの羞恥心への配慮や、疾患に応じた介助方法の選択など、細かい気配りをすることが訪問入浴には必要です。
まとめ
訪問入浴は、自宅での入浴が難しい方に、入浴を楽しむ機会を提供できる社会的意義のあるサービスです。
3名の職員が役割を分担しながら連携し、安全性や安心感に配慮した入浴介助が行われています。
夜勤はありませんが、業務の特性上、体力やチームワーク、相手を思いやる姿勢が求められる場面もあります。
また、こうした特徴を踏まえた上でサービスの利用を検討する際には、内容や料金体系を事前に確認しておくことが大切でしょう。
併せて、キャンセル料や清掃費などの取り扱いについても把握しておくと、安心して利用できます。
高齢化が進む中で、訪問入浴は身体の清潔保持やリラックスにつながり、利用者の生活の質を支える役割を担う仕事といえるでしょう。

