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104離床とは?安全に進める手順と注意点を徹底解説

離床とは、病気やけが、高齢などで寝たきりの状態にある人が、ベッドや布団から体を起こして座ったり立ったりすることを指します。

医療や介護の現場では、離床を適切に行うことが、筋力維持や血流改善、褥瘡(じょくそう)の予防、心身のリハビリにつながる重要なケアの一つです。

本記事では、離床の目的や方法、注意点について詳しく解説します。

離床とは?医療・介護における定義と基本的な意味

離床についての理解を深めることは、患者や利用者の心身の健康を維持し、より良い生活の質(QOL)を保つことにつながります。

ここでは、離床がどのような動作を指しているのか、対義語との関係性、なぜ医療や介護の現場で重要視されているのかについて解説します。

ベッドから離れること全般を指す専門用語

離床という言葉は、文字通りベッドや布団から離れることを意味する専門用語です。

単に起き上がるという動作だけでなく、一日中ベッドの上で寝たまま過ごしている状態から抜け出すこと全般を指します。

例えば、上半身を起こして座る姿勢をとることや、車椅子へ乗り移ること、さらには立ち上がって歩行することなどが、離床の範囲に含まれます。

医療や介護の現場では、病気やけがの急性期を脱した後、可能な限り早い段階からこのプロセスを開始することが大切です。

ベッドの上で過ごす時間を少しでも減らし、体を起こして活動する時間を増やすことが、自立した生活を取り戻すための土台となるでしょう。

離床と臥床の違いとは?

離床と対極にある状態を表す言葉として、臥床という専門用語があります。

臥床とは、ベッドや布団の上に横たわって寝ている状態そのものです。

病気の治療において絶対安静が必要な時期には、この臥床状態を保つことが求められます。

しかし、治療が落ち着き回復期に入った場合でも、長期間臥床が続くと、人間の身体機能は急速に低下することがあります。

そのため、現代のケアの現場では、臥床時間をできるだけ短くし、離床時間をなるべく確保するというアプローチが一般的です。

ベッドに寝ている状態から、体を起こして活動する状態へと移行させることが、介護やリハビリテーションの第一歩となります。

なぜ寝たきりは危険なのか?

長期間ベッドの上で寝たまま過ごす寝たきりの状態が注意されるのは、廃用症候群と呼ばれる状態を引き起こすことが理由です。

人間の体では、使わない機能は比較的短期間で低下していくことがあります。

わずか数週間寝たきりで過ごすだけでも、筋肉量が減少し、関節の可動域が狭くなることや、心臓や肺の機能が低下することがあります。

こうした状態になると、元の健康な身体機能を回復するためには、時間をかけたリハビリテーションが必要になる場合があります。

最悪の場合は、寝たきり状態が長く続くこともあり、これを防ぐために離床を意識的に行うことが大切とされています。

離床を促す5つの主要な目的と心身へのメリット

長期間の臥床から抜け出し、ベッドから離れることは、人間の体全体に多くのメリットをもたらします。

離床を積極的に進めることは、身体機能の維持や向上だけでなく、内臓の働きを活性化させ、さらには精神的な安定にもつながるでしょう。

ここでは、離床を促す具体的な5つの目的と、心身へのメリットについて詳しく解説します。

【身体面】筋力低下と関節の拘縮を予防する

ベッドから離れて体を起こすだけでも、首や背中、腹部などの姿勢を保つための筋肉に刺激が入ることがあります。

座ったり立ち上がったりする動作は、足腰の筋肉を自然に鍛え、長期間の安静による急激な筋力低下を防ぐのに役立つでしょう。

また、ベッドの上で同じ姿勢を取り続けると、関節が動かなくなる「関節拘縮」という状態を引き起こすことがあります。

離床を通じて関節を定期的に動かし、適度な体重をかけることで関節の柔軟性を維持し、スムーズな体の動きを保ちやすくなる点もメリットの一つとされています。

【身体面】心肺機能の維持と誤嚥性肺炎の防止

上半身を起こして座る姿勢をとると、肺が下方向へ広がりやすくなり、自然と呼吸が深くなります。

ベッドで仰向けのままでは浅くなりがちな呼吸が改善されることで、血中酸素飽和度(SpO₂)が向上し、心臓や肺の機能低下を防ぐことが可能です。

さらに、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

体をしっかりと起こした状態で食事をとったり唾液を飲み込んだりすることで、食べ物や細菌が誤って気管に入るリスクを減らせるでしょう。

また、深く息を吸い込んで強く咳払いができるようになるため、気道に溜まった痰を外へ排出しやすくなることもメリットです。

【身体面】血流改善による褥瘡(床ずれ)の発生予防

仰向けの状態で長時間寝たままでいると、腰や後頭部など、体重が集中して骨が突き出ている部分の血流が滞ってしまいます。

この圧迫された状態が長く続くと、皮膚やその下の組織が血流不足により壊死してしまう褥瘡が発生します。

褥瘡は一度できると治りにくく、強い痛みを伴うことがあり、重篤な感染症につながる可能性もあります。

離床して姿勢を変えたり、車椅子に座り直したりすることで、体にかかる圧力の場所を変え、圧迫を分散させることができます。

結果的に全身の血行が促進され、褥瘡の発生を効果的に予防することが可能でしょう。

【身体面】腸管の運動を促し便秘を解消する

人間は体を起こして活動することで、重力の影響を受けて内臓が正しい位置に収まり、腸の蠕動運動が活発になりやすい構造になっています。

ずっと寝たままの状態でいると腸の動きが鈍くなり、便秘が起こりやすくなることがあります。

便秘は腹痛や食欲不振の原因になるほか、腸内環境の悪化や不快感を招く場合もあります。

離床して座ったり歩いたりすることは、腸に適度な刺激を与え、自然な排便を促すための効果もあります。

また、ポータブルトイレなどに座って排泄する姿勢をとることは、腹圧をしっかりとかけやすくし、スムーズな排泄動作に直結するでしょう。

【精神面】昼夜逆転を防ぎ認知機能の低下を抑える

離床は身体面だけでなく、精神面や脳の働きにも大切です。

日中はベッドから離れて日光を浴び、活動的に過ごすことで体内時計がリセットされ、夜間に自然な睡眠をとれる生活リズムが整います。

これにより、昼夜逆転の生活を防ぐことができます。

また、ベッドから起きて視界が広がり、周囲の人とコミュニケーションをとることで、脳にさまざまな刺激が送られます。

これらの視覚的・聴覚的な刺激が脳全体を活性化させ、入院や施設入所にともなう認知機能の低下や、せん妄の予防につながるでしょう。

安全に離床を進めるための5つのステップ

長期間ベッドで過ごしている方が、急に立ち上がったり歩いたりすることは、思わぬ事故につながる可能性があります。

急激な血圧低下や筋力不足による転倒・転落のリスクも考えられます。

ここでは、安全に離床を進めるための基本的な5つのステップを、具体的な手順とともに解説します。

ステップ1:ベッド上でのギャッチアップ

離床に向けた第一歩は、いきなりベッドから降りることではなく、ベッドの上で上半身を起こすことから始まります。

介護用電動ベッドの背もたれ部分を上げる機能を、ギャッチアップと呼びます。

まずは30度程度の低い角度から始め、本人の表情や血圧の変化、息苦しさがないかを確認しながら、数日かけて徐々に角度を上げていくことが大切です。

この際、体が足元に向かって滑り落ちて姿勢が崩れないように、先にベッドの膝部分を軽く上げてから背上げを行うのがポイントです。

背上げをして座る姿勢に体を慣らすことが、重力に逆らうための最初のトレーニングとなります。

ステップ2:ベッドの端に座る「端座位」

ベッド上での背上げ姿勢が安定して長時間保てるようになったら、次はベッドの縁に腰掛ける端座位というステップに進みます。

端座位とは両足をベッドの横から下ろし、足の裏をしっかりと床、または足台につけて座る姿勢のことです。

背もたれがない状態で体幹の筋肉を使って姿勢を保つため、ギャッチアップのときよりも一段階高い抗重力筋の働きが求められます。

この端座位の姿勢は、食事をとったり、歯磨きをしたりといった、生活の基本姿勢となります。

ステップ3:足に体重をかける「立位」

端座位の姿勢が安定し、めまいやふらつきがないことが確認できたら、自身の足で体重を支える「立位」のステップへと進んでいきましょう。

まずは足踏みをして、下肢の血流を促進します。

次に、介助者は本人の正面や斜め前に立ち、前かがみの姿勢でお尻を浮かせ、足の裏全体にしっかりと体重を乗せられるようにサポートします。

最初は、ベッド柵や手すりにしっかりと掴まりながら立ち上がるように支援することが大切です。

両足で確実に体重を支え、膝が伸びてまっすぐな姿勢を数秒間保持できるかどうかを確認します。

この立位訓練は、足の筋力を回復させるだけでなく、足の裏からの感覚刺激を脳に送るという効果も期待できます。

ステップ4:車椅子への安全な移乗と座位保持

立位がとれるようになった、もしくは介助によって安全に方向転換ができるようになれば、ベッドから車椅子へ移乗するステップに入ります。

車椅子をベッドにしっかりと近づけ、ブレーキが確実にかかっていることを必ず確認してから行いましょう。

車椅子に移乗できれば、病室を出てデイルームで食事をとったり、施設内の庭を散歩したりと、活動範囲が広がります。

また、車椅子に長時間正しい姿勢で座り続けること自体が、体幹の筋肉を使い続けるため、体力回復にもつながります。

ステップ5:歩行器や杖を使った歩行訓練

車椅子での移動が安定し、体力と筋力が十分についてきたと判断されたら、最終段階である歩行訓練へとステップアップします。

いきなり何も持たずに歩き始めるのではなく、まずは歩行器などの安定性の高い補助具を使用し、安全を十分に確保した上で病室内の短い距離から歩き始めます。

歩行器で安定して歩けるようになったら、杖を使った歩行へと移行し、徐々に廊下などの長い距離へと歩行範囲を拡大していくのがコツです。

歩行は全身の筋肉を連動させてバランスをとる非常に高度な動作であり、歩行能力の獲得は自宅での自立した生活に向けた最も大きな達成目標となるでしょう。

離床実施前の必須アセスメントと中止基準

離床は心身に多くのメリットをもたらす一方で、心臓や呼吸器に一時的な負担がかかる場合もあります。

ここでは、離床実施前の必須アセスメントと中止基準について詳しく解説します。

バイタルサイン(血圧・脈拍・体温)の事前確認

離床を実施する直前には、必ずバイタルサインを測定し、普段の数値と比較して異常がないかを確認することが大切です。

血圧が高すぎないか・低すぎないか、脈拍に乱れや頻脈がないか、発熱していないか、血中酸素飽和度(SpO₂)が正常範囲に保たれているかなどを細かくチェックしましょう。

体を起こすと、心臓は重力に逆らって血液を脳へ送り出す必要があるため、バイタルサインが不安定な状態で離床を行うと、脳貧血で倒れることや心臓発作が起こる可能性があります。

意識レベルや痛みの有無、疲労状態の評価

数値による確認に加えて、利用者の主観的な状態や外見からの客観的な評価も大切です。

呼びかけに対してはっきりと応じられるかといった意識レベルの確認や、前日の疲れが残ってぐったりしていないかなどを注意深く観察しましょう。

また、「どこか痛いところはありませんか?」と必ず確認をとる必要もあります。

手術の傷跡や関節などに強い痛みがある場合、無理に動かすことで痛みが悪化し、それがトラウマとなってその後の離床を拒絶される原因になることがあります。

痛みが強い場合は、痛み止めの薬が効いている時間を狙って離床を行うなどの計画的な調整が必要です。

離床を中止・延期すべき明確な基準

医療や介護の現場では、安全を確保するために「このような状態のときは離床を控える」という明確な中止基準が設けられています。

例えば、以下のような場合は離床を中止し、医師や看護師の指示を仰ぐことが望ましいとされています。

  • 収縮期血圧が安静時から大きく変動している場合
  • 脈拍が1分間に120〜140回を超える頻脈、あるいは極端な徐脈の場合
  • 安静にしていても息苦しさがある場合
  • 強い胸の痛みや動悸を訴えている場合

無理に離床を行って症状を悪化させないよう、冷静に判断することも介助者には求められます。

離床介助における注意点とトラブル予防策

アセスメントを確認した上で離床の動作に入る際も、介助者には細やかな注意が求められます。

患者や利用者の急な体調変化に対応できる準備を整えておくことはもちろん、介助者自身の体を守ることも大切です。

ここでは、離床の場面で起こりやすい転倒や体調不良などのトラブルを未然に防ぐための予防策と、介助者の身体的負担を軽減するための技術について詳しく解説します。

転倒・転落を防ぐための環境整備と見守り

離床介助中に注意したいのが、転倒やベッドからの転落です。

動作を始める前に、ベッドの周囲にスリッパや電源コードなどのつまずきの原因となる障害物がないかを確認し、安全なスペースを確保しておきましょう。

また、ベッドの高さは、本人が端座位をとったときに足の裏がしっかり床に届くように調整することが基本です。

足が床に届かない状態では踏ん張りがききにくく、滑る可能性が高くなります。

さらに、介助中は目を離さず、いつでも体を支えられる位置に立ち、動作が終わって安全な姿勢が保たれるまで見守ることが、事故を防ぐポイントとなります。

起立性低血圧(立ちくらみ)の予防と対応

長期間寝ていた方が急に体を起こしたり立ち上がったりすると、血液が下半身に集中して脳への血流が一時的に低下し、めまいや立ちくらみ、ひどい場合は気を失ってしまうことがあります。

これを「起立性低血圧」と呼びます。

予防策としては、いきなり立ち上がるのではなく、ベッドの背上げをして数分間体を慣らし、次に端座位になって数分間様子を見るといったように、段階を踏んでゆっくりと姿勢を変えることがポイントです。

また、端座位の状態で足首を動かしてもらい、ふくらはぎの筋肉を使って血液を心臓に戻す準備運動をすることも効果的な対応策となります。

介助者の腰痛を防ぐ「ボディメカニクス」の活用

離床介助は、介助者の腰に負担がかかりやすい動作です。

腰痛を予防するためには、「ボディメカニクス」と呼ばれる身体の力学的原理を活用した介助技術が不可欠です。

具体的には、介助する際は足を前後に開いてスタンスを広く取り、重心を低く保ちます。

腕の力だけで持ち上げようとするのではなく、本人と自分の体を密着させ、自分の膝と腰の屈伸運動を使って、体全体で支えるように動かします。

てこの原理を応用し、無理なひねり動作を避けることで、腰への負担を軽減しながら安全に介助をすることができるでしょう。

適切な福祉用具の利用

介助者の技術だけでは限界がある場合、あるいは本人の体重が重く安全が確保できない場合は、福祉用具を活用するのがおすすめです。

例えば、ベッドから車椅子への移乗の際、お尻を滑らせて移動できるスライディングボードやスライディングシートを使用すれば、持ち上げる力を最小限に抑え、摩擦を減らして安全に移乗させることができます。

また、立ち上がりを補助する手すりなどを環境に合わせて導入することで、介助される側の安心感を高めると同時に、介助する側の身体的負担を大きく軽減することが可能です。

まとめ

離床とは、単にベッドから起き上がるという物理的な動作にとどまらず、患者や利用者が人間らしい尊厳のある生活を取り戻すための極めて重要なプロセスです。

長期間の寝たきりが引き起こす廃用症候群を防ぐためにも、筋力の維持や心肺機能の向上、認知機能の低下予防といった多角的なメリットを理解し、積極的かつ安全に離床を進めることが求められます。

介護従事者の方は、この機会に離床の基本を確認し、必要な知識・技術を身に付けてみてください。