高齢になると、さまざまな疾患や筋力低下などによって、食べ物の飲み込み(嚥下)に障害が出る場合があります。
「最近よくむせるようになった」「柔らかいものばかり食べるようになった」などがあれば、嚥下障害のサインかもしれません。
放置すると、誤嚥性肺炎や食事量・体力の低下につながり、健康を損なうおそれがあります。
原因を理解し、対策することがリスクの軽減につながります。
本記事では、嚥下障害の症状や原因、具体的な検査方法、自宅や介護現場で実践できる対策などについて詳しく解説します。
嚥下障害とは
嚥下障害とは、食べ物や飲み物を口から胃へ送り込む過程のどこかに障害が生じ、誤嚥したり、喉に詰まりやすくなったりする状態です。
本来、人間は食物を飲み込む際に、鼻腔への逆流や気道への入り込みを防ぐため、食道以外の通路をふさぐ仕組みが備わっています。
しかし、疾患や加齢の影響でこの仕組みが不十分になると、気道に食物が入り込み、むせることが増えてきます。
嚥下障害は、単にむせるだけでなく、誤嚥した食物が肺に入ると誤嚥性肺炎を起こす可能性もあります。
場合によっては症状が重くなることもあるため、日頃から注意や工夫を意識することが大切です。
嚥下障害の症状・サイン
以下のような症状が現れたら、嚥下障害のサインかもしれません。
気になる点があれば、早めに専門機関で相談しましょう。
<食事中にむせる・咳き込む>
食べ物や水分が気道に入りそうになると「咳嗽反射(咳反射)」が起こり、反射的なむせ込みで気道から押し戻します。
このむせ込みが頻繁に起こる場合は、嚥下障害の兆候と考えられます。
食事以外に唾液でもむせることがある場合は、少し注意して様子を見ておくとよいでしょう。
<食べ物や飲み物が口に残る>
口の中に食べ物や水分が残っていても気付きにくいのは、口腔内の感覚が鈍くなっていることが原因です。
また、舌の動きが鈍いと口の中の食物をうまくまとめられなくなります。
口腔内の感覚や舌の動きが弱くなっている場合は、嚥下に影響が出ている可能性があります。
少し気に留めて様子を見ておくとよいでしょう。
<食べ物をよくこぼすようになる>
食物が口からこぼれるのは、口唇などの筋力低下や脳卒中による麻痺などで、本人が意識しないうちに口が開きやすくなっているためと考えられます。
咀嚼や飲み込みに使う舌や唇、頬の筋肉の機能が弱くなることもあり、嚥下に影響が出ることがあります。
<食後に声がガラガラになる>
食後に声が枯れたり、ガラガラした声になったりするのも、嚥下障害のサインです。
口腔内に食物が残りやすいと痰が絡みやすくなり、声質に変化が見られることがあります。
これは「食後嗄声」や「湿性嗄声」とも呼ばれ、放置すると呼吸とともに残留物が気道に入りやすくなり、誤嚥につながる可能性もあります。
<柔らかいものを好むようになる>
通常、口に入った食物は歯で細かく刻まれ、唾液と混ぜ合わされたあと飲み込まれます。
しかし、口周りの筋肉が十分に働かない場合や、歯に痛みなどの不具合がある場合は、噛む力にも影響が出ることがあります。
固い食べ物が噛みにくく、飲み込みにくくなるため、自然と柔らかいものを選んで食べるようになることがあります。
<食事に時間がかかって疲れてしまう>
噛む力の低下や、飲み込むための頬や喉の筋肉の衰えによって、咀嚼や嚥下に時間がかかり、疲れやすくなる傾向があります。
嚥下機能に影響がみられる場合、一度に飲み込める量が少なく、何度かに分けて嚥下する必要があるため、食事の時間が長くなるでしょう。
食事時間が長くなると疲れがたまり、最後まで食べきれなくなることもあります。
体重の変化などが気になるときは、食事方法を少し工夫しながら様子を見ていくことも一つの方法です。
<発熱や肺炎を繰り返す>
風邪ではないのに発熱や肺炎を繰り返す場合は、誤嚥性肺炎の可能性も考えられます。
高齢者では、肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎といわれています。
誤嚥性肺炎は重度になることもあるため、日頃から嚥下の状態に気を配り、必要に応じて医療機関に相談することが大切です。
出典:厚生労働省「高齢化に伴い増加する疾患への対応について」 P5
嚥下障害が引き起こすリスク
嚥下障害に対し何も対策を行わないでいると、さまざまな危険性につながります。
嚥下障害がもたらすリスクについて解説します。
誤嚥性肺炎
誤嚥によって細菌感染を引き起こした肺炎を、誤嚥性肺炎と呼びます。
高齢者の肺炎は重症化しやすく、急性期の治療のために一時的に動けない期間があると、さらなる筋力低下につながります。
筋力が低下すると誤嚥のリスクが高まり、状況がさらに悪化してしまうこともあります。
嚥下障害の患者にとって、誤嚥性肺炎の防止は大切な課題といえるでしょう。
低栄養・脱水・体力低下
誤嚥性肺炎による入退院の繰り返しや、むせによって十分な水分や栄養が摂取できなくなると、低栄養や脱水、体力の減少といった問題が生じます。
その結果、低栄養や脱水がさらに進んでしまうおそれがあります。
水分はとろみをつけるなどして、誤嚥しにくくする工夫を取り入れると安心です。
食べる楽しみの低下
食事は栄養摂取だけでなく、生活における楽しみの一つです。
嚥下障害になると、むせたり完食できなかったり、繊維質や固いものが食べにくくなることがあります。
好物だった固いおせんべいなどが食べにくくなると、食の楽しみが減ってしまうこともあります。
嚥下障害は栄養面だけでなく、生活の質(QOL)にも影響することがあります。
日常の工夫やサポートを取り入れることで、食べる楽しみをできるだけ保つことができるでしょう。
窒息のリスク
嚥下障害があると、窒息しやすくなる可能性があります。
消費者庁の発表によると、令和3年に窒息によって亡くなった65歳以上の高齢者は、交通事故による死者数の1.8倍にも上っていたことが分かっています。
特に正月の三が日に集中して発生しており、餅による窒息が多く見られます。
そのため、嚥下能力が低下している高齢者が餅を食べる際は、少し工夫することで、より安全に食べやすくなります。
出典:政府広報オンライン「餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は?」
むせていないのに肺炎を繰り返す不顕性誤嚥
不顕性誤嚥とは、食物が気道に入らないようにするための咳嗽反射が起こらず、見かけ上は誤嚥していないように思えても、実際には誤嚥を繰り返している状態を指します。
主に脳卒中やパーキンソン病で見られることがあり、食事中だけでなく夜間の唾液でも発生する可能性があります。
本人も気付かないうちに誤嚥している場合があるため、むせていなくても発熱や体調の変化などに注意しながら様子を見ておくと安心でしょう。
正常な嚥下の仕組みとは
本来、人間の食べるという行為には、誤嚥を起こさないための複雑なシステムが影響し合っています。
正しい嚥下の構造を知ることで、どのような問題がどの部分に生じているかを明確にすることができます。
少し専門的になりますが、正常な嚥下の仕組みについて解説します。
摂食嚥下の5期
普段何気なく行われている食事の動作ですが、いくつもの器官が組み合わされることで、安全な食事を形作っています。
この摂食・嚥下の行為は5つの段階に分けることができ、どの段階での問題かが分かると、対策も立てやすくなるでしょう。
<先行期>
先行期とは、食べ物を認識して口に入れるまでの段階を指します。
通常は特に苦労なく食事ができますが、認知症によって食べ物を認識しにくくなると、この先行期でつまずくことがあります。
また、両腕の麻痺や筋力低下で食事を口まで運びにくい場合は、介助を取り入れると安心です。
<準備期>
準備期に行うのは、食べ物を咀嚼し、飲み込みやすいように口の中で一口大にまとめ、「食塊」を形成することです。
歯や義歯の不具合で咀嚼する力が弱まっていると、噛むのに時間がかかり、食事時間が長くなることがあります。
また、食塊をつくるには舌の滑らかな動きが大切です。
舌の動きが鈍い場合、口の中に食べ物が残りやすくなることがあります。
<口腔期>
食塊にしたあと、舌を上手に使って喉に送り込みます。
この段階は口腔期と呼ばれ、舌や下顎、口唇などの動きによって、飲み込みの最終準備を行うステップです。
パーキンソン病や脳卒中などで運動機能に影響がある場合、舌を使った送り込みが難しく、嚥下に時間がかかったり、疲れを感じやすくなったりすることがあります。
この段階での動きがスムーズでない場合は、舌や口唇の運動を取り入れるなどの工夫をすると安心です。
<咽頭期>
喉に送られた食塊は、喉の筋力によって嚥下が行われ、食道へと送られます。
のど仏のすぐ上にある咽頭・喉頭が挙上することで食道入口部が開き、同時に喉頭蓋が気道にふたをすることで誤嚥を防ぐ仕組みです。
咽頭期におけるこの一連の嚥下反射はわずか0.5秒の間に行われ、ほとんどが無意識に行われています。
ただし、脳卒中や神経疾患などで気道をふさぐ反応が遅れたり、喉で食べ物が詰まったりすることもあります。
このため、咽頭期は嚥下の安全を意識する上で特に気を配ると安心な段階でしょう。
<食道期>
食道期は食べ物を食道から胃へ送る段階です。
食道が蠕動運動を繰り返し、食べ物を胃へ送ります。
しかし、この蠕動運動の機能が弱まっている人の場合、食後すぐに横になることで、重力の影響で食べ物が逆流しやすくなります。
逆流した物を誤嚥してしまうこともあるため、食道期の障害がある場合、食後30分程度は座位を保つか、ベッドの背を上げて食道が落ち着くのを待つことが大切です。
嚥下障害の主な原因
嚥下障害にはさまざまな原因があります。
疾患や加齢だけでなく、心理的な影響や薬の副作用などによっても起こることがあります。
そのため、嚥下障害に対処する際は、いくつかの視点から考えてみることが大切です。
器質的原因
嚥下に関わる口腔や咽頭、食道などの器官の構造的な問題によって嚥下障害が起こることがあります。
例えば、口腔内の炎症や咽頭にできた腫瘍によって食物の通り道が狭くなり、飲み込みに影響が出ることがあります。
また、舌がんの治療のために舌の一部が切除された場合、舌を使って食べ物を送り込むことが困難になるでしょう。
このような場合、根本的な解決は腫瘍の除去や食道の拡張手術などが必要になりますが、食べやすく飲み込みやすい食形態に変更することも大切です。
機能的原因
器質的な構造に異常はないものの、筋力や神経に機能的な問題があると嚥下障害が起きやすくなります。
飲み込み時に気道をふさぐ嚥下反射は、食塊が咽頭を通過する際に行われる神経反射です。
しかし、脳卒中やパーキンソン病などによって舌咽神経や迷走神経に障害がみられると、嚥下反射が遅れることがあり、誤嚥につながる可能性があります。
また、疾患だけでなく、向精神薬や抗不安薬が神経系に影響する場合や、加齢による筋力低下などによっても、嚥下障害が生じることがあります。
口腔内の問題
歯や義歯の噛み合わせ不良や口腔内の痛みなどによって咀嚼が十分に行えない場合、食塊をうまく形成できず、飲み込みに影響が出ることがあります。
また、薬の副作用によって口腔内が乾燥すると、唾液が不足し、飲み込みにくくなることもあります。
これらの問題については、口腔ケアや食前の唾液腺マッサージなどで予防が可能です。
必要に応じて歯科を受診し、歯や義歯のトラブルに対応することも検討するとよいでしょう。
心理的・体調要因
うつ病や心身症、パニック障害などの心理的な要因によって、喉の違和感や飲み込みづらさを感じることがあります。
また、器質的・機能的な問題が見られない場合でも、過度のストレスによって食欲が低下すると、筋力低下や低栄養につながることがあります。
そのため、心身の状態を見ながら、無理のない対応を心掛けることが大切です。
症状の状況によっては、ストレスの軽減に向けた取り組みや薬物療法が行われることもあります。
高齢者に起こりやすい背景
嚥下障害は加齢の影響を受けやすくなります。
活動量の減少による筋力低下や、食が細くなることで起こる低栄養は、咀嚼や飲み込みに使う筋力の減退にもつながり、嚥下障害を悪化させる原因にもなります。
また、体力が落ちると食事にかかる時間が長くなり、十分な栄養を摂りにくくなる場合もあります。
栄養摂取が十分に行えない場合、栄養補助食品によって栄養を確保することも効果的です。
嚥下障害の検査と診断の方法
嚥下障害の有無や原因を調べるには、機器を用いずに行える簡易的な検査と、精密機器を用いた専門的な検査があります。
主な検査方法について解説します。
嚥下障害の診断ができる医療機関
自身や家族に嚥下障害が疑われる場合、どの科に行けばよいか迷うこともあるかもしれません。
一般的には、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科、またST(言語聴覚士)がいるリハビリテーション科などで相談するとよいでしょう。
自宅でも一部の簡易検査を行うことはできますが、より正確な診断や重症度の評価には、専用の機器がある医療機関を受診することをおすすめします。
問診・スクリーニングテスト
病院で嚥下障害の診断をするためには、まず問診を行い、全身状態をチェックします。
既往歴や症状の確認、睡眠状況などについて聞き取りを行うことが大切です。
その後、簡易的なスクリーニングテストによって障害の有無や程度を検査します。
スクリーニングテストは専用の機器を必要としないため、自宅でも検査が可能です。
<反復唾液嚥下テスト>
一定時間の間に、唾液を何回飲み込めるかを数える検査です。
嚥下に必要な筋力や神経に問題があると、1回の飲み込みに時間がかかるため、嚥下できた回数をもとに、障害の有無を判断します。
高齢者の場合、30秒で3回未満であれば嚥下障害の可能性があるとされています。
<水飲みテスト>
30mlの冷水を口に含み、飲み込み切るまでの嚥下回数や時間、むせの有無を調べる方法です。
嚥下に問題がある場合、一度では飲み込めず、3回以上に分けて嚥下することになります。
検査中の誤嚥には十分注意し、30mlの水を口に含むのが難しい場合は、3mlで実施する改訂水飲みテストに切り替えます。
<フードテスト>
プリンや粥などを実際に摂食し、嚥下反射の有無やむせ、呼吸や声の変化がないかを調べる方法です。
嚥下反射が遅れていないか、食塊の形成ができているか、口腔内に残留物がないかを確認し、嚥下障害を診断します。
嚥下内視鏡検査(VE)
鼻からファイバースコープを挿入し、実際の飲食物が飲み込まれる様子をモニターで観察する方法です。
飲み込む際の咽頭の動きを観察でき、嚥下障害の状態や原因を詳しく調べられます。
嚥下内視鏡検査で用いる機器は、小型で持ち運びのしやすいものも開発されており、STや歯科医師が自宅に訪問して検査を行う場合もあります。
嚥下造影検査(VF)
バリウム(造影剤)を混ぜた食品を食べ、その様子をX線で動画撮影します。
嚥下障害の診断として、信頼性の高い検査方法です。
嚥下障害の症状が判明するだけでなく、食形態や姿勢、とろみの量、適切な一口量など、対応方法の検討にも用いることができます。
嚥下障害へのアプローチ
嚥下障害そのものへの対応は、治療的アプローチと代償的アプローチの2種類に大別できます。
それぞれについて解説します。
治療的アプローチ
嚥下障害の原因となっている機能の改善を図ることを治療的アプローチと呼び、筋力アップの訓練や手術によって機能回復を目指す方法です。
訓練によって効果が出るまでには、ある程度の時間がかかる場合があります。
しかし、日々の訓練によって、長期間の機能維持が可能になります。
<間接的嚥下訓練>
食べ物を使わずに嚥下訓練を行う方法は間接的嚥下訓練と呼ばれます。
舌や頬の動きを滑らかにするための筋力アップトレーニングや、唾液の分泌を促す唾液腺マッサージなどが含まれ、食事以外の時間に自主トレーニングとして行うこともできます。
発声を伴うパタカラ体操なども間接的嚥下訓練の一つです。
<直接的嚥下訓練>
実際に食事を摂りながら嚥下の訓練を行う方法です。
とろみの程度や食事形態の見直しにも用いられます。
実際の方法には、ぱさついた食べ物とゼリーのようなとろみのある食品と交互に食べる交互嚥下や、食べ物一口に対して、数回飲み込みを行う複数回嚥下などがあります。
直接的嚥下訓練は、障害の程度によっては誤嚥のリスクがあるため、STや看護師などの指導の下、安全に留意して行うことが大切です。
<手術>
嚥下障害の状態によっては、手術によるアプローチも有効です。
手術には大きく分けて2種類があり、誤嚥を減らし、口からの摂取を可能にする嚥下機能改善手術が行われます。
それでも症状の改善が見られない場合、食道と気道を分離する誤嚥防止術を行うこともあります。
誤嚥防止術は声に影響を及ぼす可能性があるため、医師と相談しながら慎重に検討することが望ましいでしょう。
手術後もすぐに食べられるようになるわけではなく、術後のリハビリを行うことが大切です。
代償的アプローチ
治療的アプローチによる機能回復は、加齢の影響などにより思うように進まない場合もあります。
そのような場合でも、現在の機能の範囲内で誤嚥を減らし、口からの摂取を続ける方法を「代償的アプローチ」と呼びます。
具体的には、食形態やとろみの量、食事時の姿勢などを調整することで、誤嚥しにくい食生活を維持する方法です。
嚥下障害の原因や症状に適した食事に変えることで、即効性のある解決策として用いられます。
自宅・介護現場でもできる具体的な対策
嚥下障害による誤嚥は、日常的なケアで軽減を目指すことが大切です。
ここでは、誤嚥を予防するための具体的な対策を紹介します。
食事時の姿勢・環境の見直し
誤嚥防止のために最初に行なっておきたいことは、食事中の姿勢やイスの高さの調整です。
片麻痺があると、姿勢が麻痺側に傾きやすくなります。
まずは真っ直ぐ座っているかを確認します。
骨盤の位置が前後左右に傾いていないか確認し、ズレがある場合は座り直しましょう。
それでも傾きが見られる場合はクッションなどを挟んで調整します。
顔が上を向いていると誤嚥しやすくなるため、あごを引いた状態が理想的です。
膝が直角で、両足の裏が地面にしっかりつくようにイスの高さも調整しましょう。
安全に食べるための介助技術
誤嚥を防ぐために注意しておきたいことは、一口の量と食事のペースを守ることです。
たくさん頬張ると、咀嚼や食塊の形成がしにくくなり、誤嚥のリスクが高まることがあります。
また、一口を飲み込み終わる前に次の食べ物を口に入れると、飲み込みのタイミングがずれ、誤嚥しやすくなることもあります。
食事介助を行う際も同様に、一口量やペースを守れるように見守りながら、必要に応じて声かけをしましょう。
とろみ・温度・味など食事形態の工夫
食形態は咀嚼能力に合わせて一口大にしたり、食べやすいように柔らかく煮た「軟菜食」にしたりするのも良いでしょう。
ミキサーにかけたものをゼリー状に再成形した「ゼリー食」は、舌で簡単に押しつぶすことができ、程よい水分を含んでいるため食べやすいです。
とろみの濃さは、嚥下反射の遅延状況に合わせます。とろみの濃いほうが良いというわけではなく、その人に合った加減にするのが大切です。
水分の温度は30〜40℃の温度帯でむせやすい傾向があるため、温かいものや冷たいものは適切な温度のままで提供するほうが安全です。
味に関しては、個人によって好みがありますが、基本的においしく感じられる味付けが最もむせにくいとされています。
これらのことを考慮し、その人に適した味付け、とろみ加減で、咀嚼力に応じた食形態の提供が誤嚥防止に効果的でしょう。
食事前の口腔体操
食事前に肩や首の軽いストレッチや、口周りの筋肉をほぐす体操を取り入れることで、咀嚼や飲み込みがしやすくなります。
また、唾液の分泌を促す唾液腺マッサージも効果的です。
嚥下障害がある人は、これらの体操を食事前に行うよう習慣づけましょう。
誤嚥性肺炎を予防する口腔ケア
誤嚥性肺炎は、食べ物とともに口腔内の細菌が肺に入り込み、肺で感染を起こすことで発症することがあります。
口腔内の細菌の数が多いほど、誤嚥したときに肺炎になりやすいため、普段の口腔ケアをしっかり行うことが大切です。
食事前にうがいをして口の中の細菌を減らすことでも、肺炎の予防につながります。
不安がある場合は専門職に相談
最近むせやすくなった、食べ物を口からよくこぼすようになったなど、嚥下障害のサインが見られたら、専門の医療機関に診てもらいましょう。
放置すると、誤嚥性肺炎を発症して入院が必要になる場合もあり、入院期間中に体力が低下することで、嚥下障害がさらに進むことも考えられます。
早めの対策で機能維持を図り、いつまでも食事を楽しめるように努めましょう。
重度の嚥下障害や座位が困難な場合の対応例
嚥下に関わる筋力の大幅な減少や麻痺などによって嚥下能力が著しく低下している場合、食べ物を飲み込む際に重力を利用する方法もあります。
ここでは2種類の方法を紹介します。
誤嚥のリスクを避けるため、医師や看護師、ST(言語聴覚士)など専門職の指示に従って行うことが望ましいでしょう。
30度リクライニング位(頸部前屈位)
座位を取れない人や、咽頭期における咽頭挙上筋群の働きが鈍い場合、飲み込むことが困難になります。
30度リクライニング位は、ベッドの角度を30度に設定し、枕などを用いて首をやや起こした状態で食事を行う方法です。
首を起こすことで、気道よりも食道の位置が下になるため、食べ物が食道に入るのを重力がサポートするようになるとともに、気道には入りにくくなる効果が得られます。
ただし、全ての人に適した方法ではないため、実施する場合は医師や看護師、ST(言語聴覚士)などの専門職の指示に従うことが望ましいでしょう。
出典:日本摂食嚥下リハビリテーション学会「第23回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術集会 スキルアップセミナー2」
完全側臥位法
完全側臥位法は、ベッド上で身体を90度横向きにした状態で食事を摂る方法です。
通常、食事中の食べ物は喉の奥にある梨状窩に一時的に溜められますが、梨状窩の容量は小さく、溢れ出たものが気道に入って誤嚥を引き起こすことがあります。
完全側臥位法では容量の大きい咽頭側壁部に溜まるようになるため、溢れ出ることが少なくなり、気道に入り込むリスクを減らすことが可能です。
完全側臥位法は比較的新しい方法であり、30度リクライニング位と同様に、医師や看護師、ST(言語聴覚士)などの専門職の指示に従って行うことが望ましいでしょう。
まとめ
嚥下障害は、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる状態で、むせや食べこぼし、食後のガラガラ声などが主なサインです。
放置すると、誤嚥性肺炎や窒息、低栄養、食べる楽しみの低下につながるおそれがあります。
加齢や疾患、薬の影響など、原因はさまざまです。
症状やサインに気付いたら早めに診察や検査を受け、日常的なケアの中で予防に努めることが大切です。

